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創立記念に関わる校長講話

2026-05-08校長先生から

 来週5月16日は、本校の開校記念日です。創立141周年を迎えます。現在、インターハイ予選の時期を迎えているため、今日は1週間早く集会を開き、創立記念にかかわる話をしたいと思います。今日の話は、皆さんの大先輩、彫刻家の本郷新さんに関わる話です。
 今年3月、本郷新生誕120周年を記念して、札幌市中央区宮の森にある本郷新記念 札幌彫刻美術館が企画・監修をした「本郷新伝」というマンガが刊行されました。あわせて、今月末まで彫刻美術館では特別展が開催されています。
 さて、本郷さんの作品は、実は皆さんのすぐそばにも存在しています。2・3年生用生徒玄関の横に立っているブロンズ像です。作品名は「わだつみ像」。今から41年前、創立100周年を記念して設置されました。
 皆さんは、そこに像があることは知っていても、「誰の、何という作品か」まで意識している人は多くないかもしれません。人は、関心を持たなければ、目の前にある大切なものにも気づくことができません。今日の話を通して、皆さんに学び取ってもらいたいことが2つあります。1つは、「目には見えているけれど、その先にある意味を考えることの大切さ」、2つ目は、「社会や他者への関心を持つことの大切さ」です。
 では、本郷新とはどのような人物だったのかから話をします。
 本郷さんが本校に在籍したのはわずか1年でした。しかし、その1年が自らの進む道を決定づけ人生の基礎になったことを、ご本人が語っています。
 創部120年以上の歴史を持つ本校美術部は、現在も年に一度、「どんぐり会展」という校外展を開催していますが、当時、道内における学生による芸術活動は「北大にクロユリ会あり、北海にどんぐり会あり」と言われ、この二つが特に活発でした。部員たちは作品を持ち寄り、熱く美術論について語り合うという文化がありました。この環境の中で、本郷さんは、芸術の道に進む決意と上京を決断します。家族からの反対もありましたが、現在の東京外国語大学と千葉大学の両方に合格をします。外大を受験したのは、世界的な彫刻家ロダンの影響を受け、留学を目指すという思いがあったからです。しかし、本郷さんが選んだのは千葉大学への進学でした。上京した本郷さんは、彫刻家で詩人としても有名な高村光太郎に師事します。ですが、その先におこったのは戦争でした。第二次世界大戦(アジア太平洋戦争)です。ものごとを自由に考え、自由に表現することが許されない時代を経験した本郷さんは、その葛藤の中から生涯のテーマを見出します。それは、芸術が自由であること。あらゆる文化活動が社会の中で大切にされること。そして何より、平和が守られなければならないということです。戦後、その思いは、彼の作品内容と展示方法に強く表れ、本郷さんは野外彫刻という分野の先駆者となり全国に影響を与えました。結果、本郷さんの作品は道内外に多数存在しています。身近なところでは、札幌大通公園の「泉」の像。そして、核兵器のない世界を願い、平和の大切さを訴え続ける作品として評価されている広島平和記念資料館前の「嵐の中の母子像」、一方、生きる自由を奪われた悲しみを伝えるため石狩の浜に展示された「罪なき人々」という意味を持つ「無辜の民」という作品など、本郷さんの作品は、特別な場所だけではなく、私たちの日常の中に置かれ、見る人に問いかけ続けている作品が多いのです。
 では、改めて「わだつみ像」です。「わだつみ」とは海の神を意味すると同時に、戦争で命を落とした学生たちを象徴する言葉でもあります。戦争末期、多くの若者が学徒出陣として戦地に送られました。その無念や思いを受け止め、平和への願いを込めてつくられたのがこの像です。
 ここで皆さんに考えてほしいことがあります。
 なぜ本郷さんは、戦争の悲惨さを直接的に表現せず、たくましい青年の姿をつくったのか。
 本郷さんはこう語っています。「健康な肉体の中に、悲しみや怒り、苦悩を込めたかった」そして、「生きたくても生きられなかった若者の“生きたい”という声を表現したかった」と。つまり、あの像は、見た目の力強さだけではなく、その内側にある「失われた命」と「平和への願い」を抱えている青年像となります。
 私たちは毎日、学校に通い、仲間と学び部活動にも取り組んでいます。しかし、それは決して当たり前ではありません。世界では今も戦争が続いています。けれども、それを遠い出来事として受け止めてはいないでしょうか。
 本郷新は、そうした現実が身近にあった時代を生き、作品を通して問い続けました。「人はどう生きるべきか」と。
 本郷さんは、本校でのわずか1年という短い時間の中で、「質実剛健」「百折不撓」という精神を体験し、仲間との関わりを通して、思いやりや正義、そして平和を大切にする心を育みました。そして、その思いを「わだつみ像」に込め、母校に贈ることで、人として決して忘れてはならないものを、私たち後輩に託したのです。
 私たちは、校内にいながらこのような作品に触れることができる恵まれた環境の中で学んでいます。皆さんには、何気なく通り過ぎるときでも構いません。ぜひ一度、わだつみ像の前で足を止め、時代を越えて語りかけてくる本郷新からのメッセージを受け止めてほしいと思います。そして、北海生が長く大切にしてきた自由と正義の精神を、私たち自身も大切にし続けていきましょう。
 作品に向き合うことが、これから自分がどのように生きていくのかを考えるきっかけとなれば幸いです。今日の話が、皆さんの心の視野を少しでも広げる機会となることを願い、話を終わります。

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